プロフィール
砂田 弓弦(すなだ ゆづる)1961年9月7日、富山市生まれ。1989年よりフォトグラファーとして活動し、ミラノを拠点に自転車競技を取材している。これまでのレースの取材日数は通算1000日以上に上る。作品は日本やイタリアをはじめ、世界各国で発表されている。

砂田 弓弦ホームページ
 著 書
ロードレース教書(アテネ書房) 1992年4月刊
イタリアの自転車工房、栄光のストーリー(アテネ書房)1994年12月刊
フォト!フォト!フォト!(未知谷) 2001年7月刊(2001年度競輪広報大賞・特別賞受賞)
ジロ(未知谷) 2002年5月刊
Wheel Talk 目次
8月20日号「仕事のことをお話します」
9月13日号「ベンチャービジネスとしてのメッセンジャー」
10月21日号「救急メッセンジャーのその先のそのまた先へ!」
11月27日号「ここから、ここを含む世界へ」
12月24日号レーサーでなく「チャリダ−」
1月24日号 「自転車に乗ることと、食べること」
2月21日号 「最高の走りにつなげるために」
3月27日号 「“スポーツは文化”を地域から」
4月25日号 「メッセンジャーと風景」
5月21日号 「私がスポーツ自転車普及にハマったワケ」 
6月27日号 Panaracerは、「茄子 アンダルシアの夏」を応援します!
8月28日号 「何故か魅力的に感じてしまって・・・」
9月25日号 「初めての世界選」
10月27日号 「走った後は、地酒だぜ!」
11月25日号 「すべてから学ぶ」
12月25日号 「いつもスペシャル★」
1月21日号「MTB XC競技のトップ選手であり続けること」
2月27日号 「忘れられない一日」
3月26日号 「無名な普通のバイカーより」
4月22日号 「世界で日本人選手が活躍する為に…」
5月27日号 「被写体としての自動車と自転車」
この仕事を始めて14年になりました。なんとか人並みに生活はできていると思います。そう見えないかも知れませんが(笑)。僕はこの仕事をはじめるとき、心に決めたことがありました。それは「好きなことをするなら貧乏でもいい」ではなく、「好きなことをするけど、金もちゃんと得る」ということです。

 なぜかというと、好きなことをするなら貧乏でもいいというのはアマチュア的考えというか、それはあくまでも趣味の世界での話しという感じがするからです。プロというのは、なにも写真がうまいということだけではありません。もちろんそれも大前提なのですが、その技を生きる術として使っている人のことをいうと思うのです。

 よく「イタリアにいるなら、サッカーを撮ったらどうです?」と言われますが、「その写真を誰が買ってくれるんですか?」と質問したくなります。いい写真を撮ったら誰かが買ってくれる・・・。そんな甘いもんじゃありません。販路を切り開くには、出版なり広告の方面でそれなりの営業も必要ですし、自分の作品をアピールすることも大事になってきます。
 シャッターを押すという行為が仕事の中でどのくらい占めるかというと、ほんのわずかです。移動、宿泊の手配、写真の発送、撮影機材の運搬や管理・・・すべて自分一人です。レースを取材するときも、まずはオーガナイザーへ取材申請書を書くことから始まります。

 僕の仕事は、世の中になくてもいいものなんです(笑)。衣食住じゃないから、なくても人は死にません。だからとくに資格も必要ないし、なるのは簡単なんです。回りに宣言しちゃえば、それでOKです。

 だけど自転車競技にかかわって収入を得ることはすごく大変なことです。僕も最初の頃はひどく苦労しました。回りの人からの助けを受けましたし、とくにイタリア人のあるおばさんが、毎日ご飯を食べさせてくれたことのおかげもあります。

 それから、心に決めたことがもう一つありました。それは「必ず自転車の本場で認められる仕事をする」ということです。本場ヨーロッパで認められるような仕事をすることが僕の生き甲斐です。

 日本のトップクラスの選手たちも、日本のレースで勝つようになったら、ヨーロッパを目指しますし、またそうじゃなくてはいけません。僕も選手のような気持ちをいつも持ち続けていますし、これがなくなったら、それは仕事をやめるときだと思っています。日本の自転車選手が置かれている環境と、僕が置かれている環境は似たようなものです。だから、日本の選手たちにはどんどんヨーロッパに出ていって欲しいし、向こうの連中に一泡吹かせてやるくらいの気概を持ってもらいたいものです。そういった選手がいっぱい出てくれば、表彰台に上る選手も必ず現れます。僕がこの仕事をやっている間、ぜひそんな選手が出てきて欲しい。僕は日本のレースを見に行くことはめったにないけど、そうした志を持つ選手はいつも応援しています。

 選手だったら勝つことにこだわらなくてはならないのですが、僕の仕事のこだわりというのは、現場の雰囲気を伝えることです。レース現場は、テレビで観られないようなことも見られます。とくにオートバイでの撮影となると、集団といっしょに移動しますからよく分かります。テレビは前方ばかり映すから、強い選手のことは分かりますけど、僕は「どの選手がどれだけ弱いか」なんてことも見てしまいます(笑)。それに集団の後ろの戦争のような状況を知るのは、監督と審判と、僕らオートバイに乗ることができるカメラマンしか知りません。そうしたことも含め、現場にある事実と感動を、写真という平面の化学変化にどうやって吹き込むかが課題です。

 今、カメラやレンズの進歩が著しいので、ピントや露出に関してはこれまでのプロとアマの垣根がどんどん低くなっています。実際、20年くらい前の自転車雑誌を見ると、今ではまず使われないようなものがたくさんあります。つまり、露出やピントを合わせること自体が難しかったですから、それでもよかったのです。でも今はそうしたことはだれでもできる時代になってきた。だから写真の中に含まれるものがよりいっそう大事になってきていますね。

(写真と文 砂田弓弦)