プロフィール
疋田 智 
都内某テレビ局勤務。
自転車通勤を提唱し、「ツーキニスト」というキーワードの生みの親。「自転車活用推進研究会」委員にして往復24kmの自転車ツーキニスト。

「自転車通勤で行こう」HP
 著 書
「自転車通勤で行こう」
(WAVE出版)
「自転車生活の愉しみ」
(東京書籍)
10月に新刊が岩波書店から発売される予定。
Wheel Talk 目次
8月20日号「仕事のことをお話します」
9月13日号「ベンチャービジネスとしてのメッセンジャー」
10月21日号「救急メッセンジャーのその先のそのまた先へ!」
11月27日号「ここから、ここを含む世界へ」
12月24日号レーサーでなく「チャリダ−」
1月24日号 「自転車に乗ることと、食べること」
2月21日号 「最高の走りにつなげるために」
3月27日号 「“スポーツは文化”を地域から」
4月25日号 「メッセンジャーと風景」
5月21日号 「私がスポーツ自転車普及にハマったワケ」 
6月27日号 Panaracerは、「茄子 アンダルシアの夏」を応援します!
8月28日号 「何故か魅力的に感じてしまって・・・」
9月25日号 「初めての世界選」
10月27日号 「走った後は、地酒だぜ!」
11月25日号 「すべてから学ぶ」
12月25日号 「いつもスペシャル★」
1月21日号「MTB XC競技のトップ選手であり続けること」
2月27日号 「忘れられない一日」
3月26日号 「無名な普通のバイカーより」
4月22日号 「世界で日本人選手が活躍する為に…」
5月27日号 「被写体としての自動車と自転車」
 コンピュータ社会にとっては、ずっと前。普通に言えば20年程度前のパソコンの黎明期のことだ。
 アップルの創業者社長スティーブ・ジョブズ氏は、会社のカネ勘定を任せるために、ペプシコーラから副社長スカリー氏をアップルに引き抜いたことがある。渋るスカリー氏を前に、ジョブズ氏がキメた言葉はこうだったそうだ。「君は、これから先の人生を砂糖水を売ることで過ごしてしまうつもりかい? それよりも僕と歴史を変える事業に参加しないか?」
 コレを最初に聞いたとき、私は「なかなか震えるセリフだなぁ」と思った。スカリー氏もそう思ったらしく、せっかくのペプシコ副社長の地位を擲って、彼はアップルに転じた。
 だが、ひょっとしたら、と今の私は思うのだ。

 南米の、西アジアの砂漠などを往くとき、いつも見るのは、「未開の村」に最初にくる「西洋文明」が、必ずペプシかコークであるという事実だ。村に誇らしげに掲げられた金属製の看板がそれを物語る。たぶん、あの砂糖水は、それらの村の人々に、数十セントと引き替えに、いくばくかの幸せと清潔を与えている。

 砂糖水を売るのだって立派な仕事だ。それどころか、貧しい地域に住む人にとっては、誰も買えないアップルコンピュータよりもペプシコーラの方がよほどあまねくの幸せをもたらしていると思うのだ。

 最近、地方都市から東京にやってきた人は必ず「東京は『自転車便』が多いですねぇ」と驚く。確かにこのところ激増した。赤坂や大手町などの一部地域に限ると、もうその密度はニューヨーク並だ。
 自転車便つまりメッセンジャーは、オートバイのサービスに較べて「安い、速い」という非常に重要な特質を持っているので、並み居る企業が次々にこちらにシフトしているのはむしろ当たり前とも言える。特に都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の速さは特筆に値する。それでいて値段はオートバイの3分の2。 さらには環境にも優しい。
 この動きが、そろそろ全国に拡がり始めている。
 北は札幌から、南は鹿児島まで、メッセンジャー会社は日本各地にぽつぽつと存在する。まだまだ首都圏、近畿圏以外では「大儲け」というにはほど遠いけれど、それなりに成り立つ商売に育ちつつあるのだ。
 社長が皆、若い。20代ばかりだ。
 昔、東京のメッセンジャー会社に勤めていたメッセンジャーたちが、全国に散って、そこで新たな会社を興す、そういうパターンが目立つ。いわばベンチャー事業だ。社会にとっても彼らにとっても、非常に好ましいことだと思う。
 ベンチャービジネスというと、誰もがまず思い浮かべるのが、金融関連やIT関連のいわばホワイトカラーの仕事だろう。だが、こうして汗を流して人のためになる事業も立派にベンチャーとして成り立つ。
 最大手「T serv」のキャッチフレーズが「カラダデトドケル」。私は爽やかな、いいコピーだと思う。
 デスクに座って、パソコンの前で数字を捻って、幾ばくかの利益を得ようと血眼になる。それもそれで一つのビジネスではあろうが、そんなことよりも、よほど爽やかで確実に人のためになる事業ではないか。

 冒頭の話に戻ると、1本数十セントのコーラを額に汗して売ることは、偉大なことだと思う。そして、そのことは1便1500円をとって、汗を流すメッセンジャーにもつながってくると思うのだ。
 頑張れ各地のメッセンジャーたち。
 きっと時代は追いついてくる。

(文:疋田 智 / 写真:バイシクルクラブ)